悼む人

直木賞受賞の天童荒太の悼む人を読みました。愛を死という切り口で魅せた作品でした。この切り口も登場人物の数の分だけ多種多様でしたが、たどり着く先は共通して愛だったというわけです。それにしても執着と手放しのテーマをここでもみることになるとは。一般的に執着は互いにとって辛くなるものとして悪とみなされがちです。その執着を求めた人もこの作品の中に存在しました。この作品に登場した僧侶は神の生まれ変わりとして誰からも愛される男だった。でも子供の時に母親には捨てられている。自分を捨て他の男と逃げ無理心中するような母をみていたから、何があっても自分を愛し執着する人を欲していた。子供って無条件に自分を愛してくれる親の愛情を受けて育つのが本来の姿ですよね。なのにそれが与えられなかったが為に、他の女性を代理人にしてまで思いを遂げようとする。母親の愛情を欲する飢餓感はここまで人を突き動かすのかとフィクションの世界としてもあまりにもな展開に呆然としました。自分に執着する女をみつけ、殺してくれるように頼みそのとおりになる。最後の言葉は「きみから・・・うまれたい・・・」だったわけです。随分勝手な男だと思いましたが、これも愛だからこそだったのかと思えばまた泣けてすらくるセリフでもありました。中盤からは何度か泣かせる場面があり、読み進めることが辛くなったほどです。悼む人を読んでいる最中は常に自分の死生観を問われ続けている感覚でした。そしてラストの数ページはなんていうんでしょうか、終わるためのラストスパートは早い段階で始まっていたのに、急速に話を閉じられた感があり、まるで百年の孤独のような印象を受けました。なんでだろ?内容は全く違うのに、ラストの印象は似ている。それなのに読み終えた直後の爽快感は、不思議。おそらくどの登場人物も悼まれたからなのかな・・・事件事故の悲惨さではなく、誰に愛されて誰を愛して人に感謝されたことはあったか、そこを読ませてくれていたのが救いだったのかもしれません。